新型コロナウイルス(COVID-19)騒ぎによって多くの催し物が中止になりずいぶんと楽しみを失った春でした。実は僕一級建築士でもありまして、現在のウイルス対策も建築士的な視点で見てしまう部分があります。
そこで今回は映画館や劇場、競技場、ライブハウス、いわゆる「興行場」の換気や衛生管理について解説してみます!
ちなみに以下の情報は興行場が新旧コロナウイルスや従来のインフルエンザ等に対して絶対に安全だというものではありません。安易ダメ絶対。
興行場とは観せ物を人々に見聞きさせる施設

まず初めに「興行場ってなんぞや?」ですが、これは「興行場法」という法律で「興行場とは、観せ物を人々に見せる/聞かせる施設」であると定義されています。
具体的には映画館、劇場、野球場やサッカー場などのスポーツ競技場、ライブハウスなどですね。
そしてこの興行場法はそれら施設の営業方法や換気、衛生管理についても取り決めているのです。
興行場の換気量は興行場法で定められている

映画館を想像してみてください。多くのお客さんが長時間閉じ込められる場所ですが、特に息苦しさを感じることは無いはずです。これは上映中にお客さんが窒息したり、インフルエンザのような咽頭系疾患が感染しやすくならないよう、常に新鮮な外気を観客席内に送り込んでいるからです。
興行場法(実際に詳細を取り決めるのは都道府県の条例)では、その必要換気量を取り決めています。
東京都の例
具体的な例を東京都の条例を参考にして挙げてみます。東京都では観覧場の換気設備について
- 床面積1㎡ごとに毎時75㎥以上の新鮮な外気を供給可能な能力を有するもの
- もしくは温湿度調整装置があれば、毎時25㎥以上とすることができるもの
としています。床面積1㎡とは座席でいうとおよそ2席分の面積です。分かりにくいので図にすると

こんなイメージです。あくまでこれは東京都の例であり、温湿度調整装置(平たく言うと加湿器)による緩和の無い地域もあります。
客席が満員の時などに基準値をクリアできていない施設も時々あるようで、保健所が年2回ほど立ち入り検査を行い、場合によっては追加対応等の指導が入ります。また、換気、照明、排水などの各設備は月に1回点検・整備しなくてはいけません。
換気設備がゴツイのは定められた衛生環境を維持するため

試しに「換気設備工事」などとgoogleで画像検索してみてください。空調機、送風機、排煙設備、それらをつなぐダクトや冷媒配管。想像よりずっと大掛かりな設備が出てくると思います。住宅の換気扇とは比べ物になりません。
興行場に限らず、人が多く集まる施設では、換気設備に多くの費用をかけ、公衆の衛生環境に配慮するよう建築基準法その他の法で取り決められているのです。
他にもいろいろと決められている興行場法
興行場法では衛生管理について換気だけではなく様々なものに対して取り決めをしていますので、ここでも少しご紹介します。
- 興行場内外は毎日清掃し清潔にしておくこと
- 伝染病にかかっているものを働かせないこと
- 伝染病にかかっている/そのおそれのある人を入場させないこと
- 飲食物の陳列・販売はトイレの付近でやらないこと
※対策してある場合を除く - 入場者の用に供する座布団等は、常に清潔なものを使用すること
- ねずみ、昆虫等の駆除及び入場者の利用する場所の消毒を適宜行うこと
お気づきかもしれませんが、今やっている各種新型コロナ対策は既存の法律の範囲内である部分も多いんですよ。従来より保守的に運用しているわけですね。
利用者にとっての「当たり前」は法によって保障されている

以上、興行場法を用いて換気や衛生管理についてまとめてきましたが、多くの人にとっては「そんなの当たり前じゃん」と思う内容だったかもしれません。法律はその「当たり前」を具体的に明文化し、必要に応じて数値化することで健全な公衆衛生を保障しているのです。
最後に:一級建築士って「当たり前」を保障するお仕事です

一級建築士はこれらの法律を読み込んだ上で、行政や業者、事業者などと調整を進めながら実際に設計していきます。
カッコ良い建物をデザインするというのは建築士にとって仕事の一側面なのです。世の中の建築士たちは、こういった地味ーな仕事をしっかりと仕上げ、人々が「当たり前」に過ごせる建物や構造物を作るためにその多くの時間を割いています。なかなか渋いお仕事でしょう?
参考(外部リンク):
興行場法
興行場の構造設備及び衛生措置の基準等に関する条例(東京都)
興行場の構造設備及び衛生措置の基準等に関する条例施行規則(東京都)
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