現在コルクラボマンガ専科という会でマンガについて学んでいる僕ですが、ストーリーの型について考えるため、大好きなクレヨンしんちゃん映画を観て検証してみました。
ストーリーには型がある
様々な映画や小説そしてマンガが多種多様なストーリーを展開していますが、実は人が面白いと思えるストーリーはある程度「型」があるということは既に多くの識者によって研究されつくしています。
ベストセラーコードでは7つの型
例えばコルクラボマンガ専科で教わった書籍「ベストセラーコード」には7つのプロットがあるとされています。ちょっと長いのですが、その7つとは
- ブッカーの喜劇 厳しい状況から徐々に幸せに向かっていく
- ブッカーの悲劇 最後には希望があるも喜劇とは逆。主人公の内なる葛藤や欠点がストーリーの主軸となる。
- シンデレラストーリー 苦難と成功の間に大きな動きがある。
- 再生型・逆シンデレラストーリー 主人公が変化を経験し、生まれ変わる
- 旅と帰還 主人公は異なる世界に直面、試練を経験。克服して戻ってくる。
- 探求型 何かを探し求めて冒険する。未知なる場所でモンスターと戦い希望は打ち砕かれ冒険を終える。
- モンスター退治 ヒーローと悪役が登場。主人公が立ち向かい平和を取り戻す。
10のストーリータイプから学ぶ脚本術では10の型
この分類は著者によって少しずつ異なり、僕が調べた中にあった「10のストーリータイプから学ぶ脚本術」という書籍では以下の10種としています。
- 家の中のモンスター 主人公が閉ざされた環境でモンスターと戦い生き延びようとする
- 金の羊毛 旅に出た主人公が当初求めていたものとは別の大切なものを手に入れる
- 魔法のランプ 不思議な力を手に入れた主人公が最終的には不思議な力に頼らず何かを成し遂げる
- 難題に直面した凡人 文字通り凡人が難題に巻き込まれる
- 人生の岐路 主人公が、人生の岐路において苦悩の末に本当の自分を受け入れる
- 相棒愛 自分に足りない要素を持った相棒と出会い共に成長する
- なぜやったのか 謎が解き明かされると見えていた景色が変わる
- おバカさんの勝利 一番バカだと思われていた人物が勝利を収める
- 組織のなかで 組織の中にいる主人公の苦悩を描く
- スーパーヒーロー 特殊な主人公が特殊であるがゆえに悩む
大好きなクレヨンしんちゃん映画に照らしてみたら全部同じ型だった!
今回ピックアップしたのは「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」、「映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃」、「映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~」の3作品。
これは近年のクレヨンしんちゃん映画で僕が最も衝撃を受けた作品であり、同一の監督(高橋渉監督)であることからストーリーの型も見つけやすいだろうと思ったからです。そして検証の結果、3作品すべてが同じ型であることが分かったのです!
以下あらすじを交えながら解説していきます(以下大いなるネタバレを含みます)。
ロボとーちゃん

あらすじ:
ロボットに改造されてしまった野原家の主ひろし。妻のみさえはその変化を受け入れがたかったものの、ひろしの真摯な愛に少しずつ心を開いていく。しかしロボットひろしは、ひろしの記憶をコピーした機械だった。悪の元凶を倒し満身創痍となったロボットひろしは最後の力を振り絞って本物のひろしと腕相撲勝負を挑む。
ロボットひろしを主人公とした場合のシナリオ分類
ブッカーの悲劇:自身の記憶はひろしなのにロボットであるという葛藤
人生の岐路:ロボットになってしまったひろしが本当の自分を受け入れる
この映画の主人公は、クレヨンしんちゃんの父であるひろし、のさらにその記憶をコピーしたロボットなのだ!彼は記憶は完全にひろしと同一なのにロボットであるという葛藤に終始苦しめられる。そして彼は最後自分がロボットであることを認め、ひろしは凄いとーちゃんだろとしんのすけに言い残し、家族をひろしに託す。
典型的なブッカーの悲劇!そして人生の岐路!もう涙なしでは観られない作品です。
ユメミーワールド

あらすじ:
地域住民が悪夢にうなされる「悪夢シンドローム」に襲われる中、転校性のサキはやってきた。サキの父は娘を悪夢から救うため、人々の夢のパワーを吸い取り日々悪夢を打ち消していた。しんのすけ達かすかべ防衛隊のみんなはサキを救うため夢の世界で悪夢と対峙するも、サキは母の死因が自分にあると自分を責め続けていた。悪夢との死闘の果てでみさえはサキに母としての愛を伝え、サキは悪夢を打ち消すのではなく認めて共存していくことを選ぶのだった。
サキを主人公とした場合のシナリオ分類
ブッカーの悲劇:母の死は自身にあるという葛藤、孤立も父を悲しませるのも嫌だという葛藤
人生の岐路:悪夢や孤立、父の悲しみの中で、自身の悪夢(過去)を受け入れていく
個人的にここ数年で最も衝撃を受けた作品。母の死、ネグレクトといった重いテーマを扱った本作は賛否も大きく分かれている。サキを主人公とした場合、彼女の葛藤や過去の自分を受け入れていく過程はまさにブッカーの悲劇であり人生の岐路でした。
カンフーボーイズ

あらすじ:
悪の組織が人を凶暴化させるラーメンでアイヤータウン(中華街)の支配を進めていた。そんな中、マサオが通う少林寺拳法「ぷにぷに拳」は悪の組織に立ち向かうも負けてしまう。後から参加したしんのすけ達がマサオを追い越していく中マサオは劣等感に悩まされていた。ぷにぷに拳門下生のランが悪を排除したい心に自分を奪われていく中、マサオたちはランの心を再びぷにぷににするため、世界を平和にする計画を企てる。
マサオを主人公とした場合のシナリオ分類
ブッカーの悲劇:自分はスーパーヒーローではないという葛藤
人生の岐路:こつこつと普通のことを積み重ねることで本当の自分を見つけていく
この作品は前2作ほど主人公が明確ではなく、しんのすけとも、ランともマサオとも言えます。本検証ではマサオであると仮定しました。マサオはしんのすけのまさに影の存在です。何の取り柄もなく、いつも失敗ばかりです。そんな彼が自分を見つめ直していく姿に多くの人が心を打たれたと思います。
まとめ:高橋渉監督はブッカーの悲劇+人生の岐路を描く名人
以上のことから、この3作品はブッカーの悲劇や人生の岐路型のシナリオに分類でき、高橋渉監督はその名人であることが分かりました(もちろん誰を主役として見るか、シナリオのどこを重く見るかによっても異なると思いますが)。
おまけ:高橋渉監督は第3の解決策を提示する
コルクラボマンガ専科の講義の中で「AでもBでもなくC」というシナリオの型が紹介されました。これは高橋渉監督作品の中でもよく使われることに気付きました。
ユメミーワールドでサキは、孤立でもなく悪夢に打ち勝つことでもなく悪夢を受け入れることを選びます。カンフーボーイズでは、カンフーや強制的な善意で悪を倒すのではなくお遊戯のジェンガで世界を平和にすることを選びます。
特にカンフーボーイズではそのエンディングに「何のためのカンフー修行だったの?」という批判があったようですが、ストーリー展開としては綺麗な「AでもBでもなくC」型でした。僕は「力には力を」という従来のやり方を選ばない高橋渉監督の選択を強く支持してます。
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